チェーン・スポーキング

カルチャーずるずるモノローグ

18年9月:「スローライフ」の行方を考えつつ自省する/ポートランド備忘録

[Chain]

 

訪れた場所については前回と大して変わっていないが、前回と同じ動きをしたからこそ、分かったこともある。出来るだけ「新たな気づき」を残そうと思う。

 

[Place]

 

ポートランドは、川を隔てて東と西で文化が分かれている。
西側はいわゆるビジネス街で、ホテルや金融ビルが立ち並ぶ一方、西側は言うなればシモキタや高円寺みたいなもの。ヴィンテージファッションやレコード、ライブハウスなどのカルチャーが密集している。

数年前に行ったときの記憶と大きく違ったのは、ノースイーストエリアのAlberta St.(アルバータ通り)に「FOR LEASE」が目立つことだった。


かつて「徐々に活性化していく」可能性を示唆したエリアだったが、そこから横に店が広がるわけでもなく、同じ店が同じ場所に留まっているだけだった。

前行った時にairbnbのホストが言っていた「家賃がどんどん高騰している」という言葉をふと思い出す。

 

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ちなみに濃ゆいジェラートが有名なSalt&Straw(ソルトアンドストロー)や、フライドチキンをサンドした暴力的なブランチを楽しめるPine states Biscuit(パインステートビスケット)など、数年前に訪れて感激したようなお店は大盛況。以前訪れた時には経験しなかったような行列が出来上がっていた。食にうるさいポートランダーや観光客がこぞって認め、噂が噂を呼んでいる模様。ただ、食に関するニューカマーは未だ現れないようで、まだまだ玉座から引き剥がすことはできないらしい。

※ちなみにガイドブックを読んで気になったのは、やけにアワードを取るレストランがダウンタウンに密集していること。しかも、カジュアルなお店よりもシックなお店に注目が集まっているような。食が徐々にラグジュアリー化していく印象だった。

 

一方で、平日でもおしなべて活気があったのは、サウスイーストと呼ばれる地域にあるHawthorne Boulevard(ホーソン・ブルーバード)という通り。

 

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数年前にあった古着屋はほぼ健在、かつ、「古着屋エリア」自体も拡大していた。うまいコーヒーは西側でも飲めるが、イケてる古着はホーソンでしか手に入らない、というステータスが確立されている様子だった。

 

[Traffic]

 

また「これは新しい!」と思ったのは、人々の移動手段。米国で流行しているLimeBikeを活用する人が多い。

 

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もともとシェアサイクルの文化ではあったものの、街を歩いていて特によく見たのは、このキックボード型の電動バイクに乗っている人たちだった。アプリでピッとタッチして、そのままピューっと乗っていき、好きなところにそのまま乗り捨てできる。若者だけではなく、スーツの男性や上品めのおばさんとかも活用していたのは面白かった。健康志向というよりは、移動手段としての利便性を取っているのだなと。

 

それにしても、新しいものやサービスをスッと受け入れる、街の人の吸収力はすごい。

 

[Stay]

 

なお、今回の目玉は観光というよりも「居住」だった。ACE HOTEL(エースホテル)に滞在するという以前からの夢がとうとう実現した。

 

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普通のホテルと大きく異なる点は、アメニティと呼べるものが無く、最低限の家具だけで部屋が出来上がっていること。
家具や内装をこだわり抜いた過程が滲み出ていて、理想的な暮らしのロールモデルが、部屋のデザインから浮かび上がってくるのが面白かった。この机とこの椅子なら、こんなモノを食べるだろうしこんなモノを着るだろう、といった具合に。

 

ただ、そういった指南に対して「まだそんなこと言ってんの?」という感覚はどうしても拭えない。
先述の「人気店は大盛況」の話もあるが、ポートランドの「スロー」が、文化の発進という意味で、悪い方向に向かっているような気がする。
NYが目まぐるしく新しいもの、よりよいモノを生み出す場所なのに対して、ポートランドは当たったものを集中して伸ばしこむような感覚。まさか空港にスタンプタウンがあるとは思わなかったし、こんなところにまで?という場所に有名な紅茶ブランドのSteven Smith(スティーブン・スミス)が蔓延していた(便利だったけどさ!)。

 

[Chain]

 

一応言っておくが、別にポートランドを責めているわけではない。
どちらかというと自分の変化のせいもある。

ポートランドは、昨年観たジム・ジャームッシュ監督の「パターソン」という映画を彷彿とさせる。毎日詩を書きながらバスの運転手をする主人公の一週間を描いた、「終わりなき日常」系の作品である。

 


『パターソン』本予告 8/26(土)公開

 

「同じことを繰り返していると、ちょっとしたことでも特別になる!」と言ってる暇は、私自身には既になくなっていて、むしろ目まぐるしい毎日から短期間で成長することを是とするようになっていった。結果、街の小さい機微(例えば、コーヒーや紅茶、ジェラートの次に何が来るか)に気づけなかったのは悔しかった。


同じカテゴリが伸びる街というよりも、特定の文化がいきなり生まれるタイプの街だったにも関わらず、「次に何が来るのか」のアンテナが張れなかったのは、今回の旅の反省点である。

 

とはいえポートランドのカルチャー水準が、未だにめちゃくちゃ高いことだけは肌身に感じた。毎秒何センチ、という微妙なスピード感で、ちょっとずつ街のトレンドは動いているはずなのだ。なにせ、吸収の早い街だから。

 

自分の責務として、また数年後、定点観測的に訪れたいと思う。

 

[SOKUJITSU]

 

ちなみに、結構前回のポートランドおすすめスポットガイドが好評だったので、今回の旅をパンフレットにまとめるつもりです。誰か助けて。